なぜ》だ」
「おまえの味方だが、また、わしの愛するモルモットじゃ。一指《いっし》も触れてはならぬぞ」
「黙れ、亡霊!」
「いや、わしの実験の済むまでは、一指も触れてはならぬのじゃ。強いて、屍骸に近寄ろうというのならば、おまえも、屍骸にしてやろう」
「…………」不気味なその一言に、ぎゃふんと参ってしまった。老博士は、二、三歩、怪老人の方へ進み寄り、
「実験といったね。何の実験かね」
「つまり、科学の実験なのじゃ」
「えッ! 科学」
「そうじゃ。亡霊が、死の船の甲板で、科学の実験をするとは、奇怪だとおもうだろう。わしは生きた人間を料理する科学者だが、みだりに生きた人間を取扱うと、陸では、法律上の罪人となるからのう」
「なるほど」
老博士は、更に二、三歩、前へ進んだ。怪老人は、ガラスのような眼で、相手を見て、
「そこで、わしは、実験室を、北洋のどろぼう[#「どろぼう」に傍点]船に選んだのじゃ。わしは、船医に化けて、この虎丸《タイガーまる》に雇われ、横浜から乗船した。そして、生体解剖《せいたいかいぼう》の実験の機会《チャンス》を狙《ねら》っていたのじゃ。するうち、それにいるボーイたちが、わし
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