体を、わしに貸してくれぬかな」
「僕は、お断りします」
「そうか、厭《いや》か。……しかし、油断するなよ。真夜中ごろ、おまえの隙をうかがって、おまえの二つの腕に、注射せぬともかぎらぬからのう。ハハハ」
怪老人は、不気味に笑った。
「生きた人間に、防腐剤を試みると、どうなりますか」
「死ぬまでさ。けれど、ほんとうに死んだのではないから、いつでも生き還《かえ》らせることが出来る」
「そ、そんな莫迦《ばか》なことは信じられません」
「信じられないなら、ひとつ、試みようか」
「真ッ平です。無理にそれを試みようというなら、腕ずくで試みなさい」陳《チャン》君の心臓――あの安南人《あんなんじん》の心臓は、こう力強く叫んだ。
「わしは、あくまでも、おまえを、わしの学説の実験にしようとおもっている。わしは、安南人の心臓を、おまえに移植しなかったら、あのとき限り、おまえは死んでいたのじゃ。それを、きょうまで生かしておいたのは、最後の実験、つまり、防腐剤注射によって、人の生命を、永遠に保たせることは出来るかを実証したかったからじゃ。おまえは、わしの愛するモルモットじゃ。今度こそ、わしの頼みをきいてもらおう
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