」こう情誼《じょうぎ》をこめて頼まれると、さすがの陳君も、あっさり拒絶できなかった。
「どうじゃ、わしの願いをきいてくれぬか」
「…………」怪老人は、陳君を尊い科学の犠牲に供したいとねがうのだ。人命を勝手に科学実験に利用するのは罪悪だが、しかし、科学者の真剣さも買ってやらねばならない。
「もし、わしの実験が失敗して、おまえが、そのまま生き還ることがなかったら、わしも、責任を負うて、この甲板で、おまえのあとを追って死ぬ。わし一人が、おめおめと生き永《ながら》えはせぬぞ。わしに見込まれて、不幸だとあきらめてくれ」
「わかりました。僕が学問の犠牲に、よろこんで成りましょう」
「おお、よく理解してくれた。それでこそ、わしの見込んだ少年だった」
 怪老人は、手を伸して、陳君の手を握り締めた。

   四 幽霊船と幽霊船

 物語は、再び運命の方船《はこぶね》に戻る。
 人造島が、海洋の真ん中で、みごとに溶けて、白堊《はくあ》の建物が、運命の方船として、波間にうかび上ってから、はや二月は経った。方船は、島の上に建っていた建物だから、普通の船のようなわけにはいかない。その半身以上を海に没し、建物の中
前へ 次へ
全97ページ中62ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺島 柾史 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング