、この碧い、宝石のような眼を、おまえに与えるというのじゃ、その東洋人の、汚らしい眼と、取替えて見よう」
 陳君は、それには応えず、後甲板の方へ逃げた。
「こら、小僧、待たぬか」
 怪老人は、あくまで執拗《しつよう》に追《おい》かけてくる。舷灯の無い、暗い甲板だが、星の光で、四辺《あたり》の様子がうかがわれる。物かげに身を潜めていると、怪老人は、よろよろと後甲板へやって来た。
「小僧、どこに居る?……。わしの、自由になってくれ。科学のためじゃ。わしの学説を完成させる、最後の試験台だ。わしのために、犠牲になってくれ」怪老人は、後甲板の彼方此方《かなたこなた》を、探し廻っている。物かげに身を潜めている陳君は、このとき、全身の血のたぎるのを感じ、荒々しい息遣いになって来た。彼の足は、力強く、物かげを出て往く。そして、よろよろ四辺を探し廻る老人の前に、立塞《たちふさが》った。
「さあ、じいさん。僕を自由にできたらやって見給え。僕の心臓は、安南人《あんなんじん》の巨《おお》きな心臓だ。僕の鉄腕は、戦いを要求している。この後甲板で、どっちが勝つか、一騎打ちの勝負をしよう」
 振《ふり》かえった怪老人
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