ぼれた、ガラスのような眼と、取替えて見ようというまでさ。フイラトフ博士は、新しい屍体《したい》の眼球を取り出して、十一年間も失明していた女の眼に移し植えて成功した。生きた、おまえの眼球を、わしに移し植えたら、わしは、急に若返るだろう」
「飛《と》んでもない。そんな、ガラスのような眼は、真ッ平です」陳君は、ベッドを辷《すべ》り落ちて、逃げ仕度をはじめた。老人は、じわじわと近寄って来て、
「いや、遠慮せずともよい。中国民族の眼と、ドイツ民族の眼と入替えてみるのじゃ。おまえは、この、碧《あお》い眼が欲しくはないか」
「真ッ平です」船室をのがれようとすると、右手を伸して肩先をつかんだ。
「おまえは、また、わしを信じないのか。わしは、学術研究のために、おまえを試験台とするのだ。コマ切れにして、煮て食おうというのではないから、安心して、わしに料理されるがいい」
「試験台にされて堪《たま》るものですか。僕は、あんたの奴隷ではありません」
 陳君は、怪老人の手を振り切って、船室を逃れ出た。いっさんに中甲板まで駈《か》け上って、ほっとすると、あとから、老人の、不気味な声が、
「こら、遠慮するなよ、わしの
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