。
「どうして、屍体をすてないのですか」
老人は、にやり笑って、
「いや。まだすてるには惜しいよ」
「また、実験に使うためですか」
「そうかも知れん。ことによったら、おまえの肉体も、必要になるか知れんよ」
「えッ!」
「驚いてはいけない。わしは、大男の心臓を、おまえに移植したのは、おまえをこの世に還《かえ》したいためではなかった。わしの学説の実験に使うためだ。だから、必要になれば、いつでも、おまえの肉体を貰《もら》うまでさ」
「あなたは、生きた人間を殺さぬと、仰《おっ》しゃったではありませんか」
「そうじゃ、わしは、生きた人間を殺さぬ。そんな殺生《せっしょう》はせぬ」
「でも、僕をまた、殺すつもりでしょう」
「いや、誤解してはいけない。わしは、死んだおまえを、元通りに死なしてやるまでさ。けっして、死んだ人間を生かしたままにはせぬよ」
「…………」陳君は、怪老人の不気味な一言に、ぞッと身顫《みぶる》いして後退《あとじさ》りした。老人は、自ら亡霊ではないと云ったが、血の通った人間とは信じられない。人間の心臓を勝手に取替えたり、屍骸《しがい》に息を吹き込んで、また元通り屍骸にしてしまうなぞ
前へ
次へ
全97ページ中55ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺島 柾史 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング