ず、そうじゃ。しかし、一九三三年に、ポロニーという学者が、一女性の腎臓を摘出して、新しい屍体《したい》の腎臓を移植して、毒死の危急を救ったことがある。いや、その翌年には、フイラトフという学者が、新しい屍体の眼球を摘出して、十一年間も失明していたある女に移植して成功したという事実もあるのじゃから、わしの心臓移植も、けっして珍しい手術ではあるまい」
「でも、奇蹟《きせき》です。そして、神の業です」
「おだてるなよ、わしは、奇蹟を信じない科学者だからのう。ハ……」
亡霊か悪魔か
怪老人は、妙技を揮《ふる》って屍体を生きかえらせ、船中には、生きた人間が二人になったが、どろぼう[#「どろぼう」に傍点]船|虎丸《タイガーまる》の船内には、依然として、不気味な空気が漂うている。中甲板には、なおも、四つの屍体が横《よこた》えられたままだ。なぜ、怪老人は、四つの屍体を、海へすてないのか。五日を過ぎ、十日と経《た》っても、屍体の処分をしない。
で、鬼気が身に迫るようだ。胸の創《きず》が癒《い》えて、甲板を散歩することがゆるされた陳《チャン》君は、中甲板で、四つの屍体を発見して、ぞっとした
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