だけに、機関士が交替に起きているに過ぎない。
夜半、約束の時刻に、老博士は、研究室の窓の下に佇《たたず》んでいた。そして、僕の姿を見つけると、片手をあげて合図をして、そのまま、風のように動力所の方へ去った。僕も、たった一人で、格納庫焼打に往くのだ。
満天に星はきらめき、空気は水のように澄んでいる。その星の光が、水晶のような氷の肌に、微《かす》かに映えて、あたかも黒曜石《こくようせき》のように美しかった。
海は、はろばろと涯《はて》しもなく、濃紫《こむらさき》色にひろがっていて、何処からか、海鳥の啼音《なきね》がきこえてくる。こんな静かな夜半、決死の二人が、十倍に余る敵を迎えて、これと闘い抜き、人造島を占拠しようというのだ。いや、あと数分ののち、この黒曜石のような美しい氷上が、血の海と化するであろう。このことが、とうてい想像できなかった。
格納庫の附近には、歩哨も、動哨もいはしない。だのに、誰か物かげに潜んでいるようで、不気味だった。僕は、四辺《あたり》に気を配りながら、格納庫の扉《ドア》を開けた。そして携えてきた小さな石油ポンプを、格納されてある飛行機の方に向けた。それから、上
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