着を脱いで、それに石油を浸した。
 これで、準備はできたのだ。
「いいか」
 僕は、自分自身にこう云って、石油を浸して上衣《うわぎ》に火を点《つ》けると同時に、それを格納庫内の飛行機へ投げつけた。
 ボーッ! と、凄《すさ》まじい音を立てて、上衣は燃え上った。
「それッ!」とばかり、僕は、石油ポンプの把手《ハンドル》を力の限り押した。燃え上った一団の火へ、石油を雨のように注いだからたまらぬ。たちまち、格納庫内は、火の海と化してしまった。
「ばんざーい」僕は、興奮して、おもわず万歳を連呼した。連呼しながら、僕は、両頬《りょうほお》に伝う熱い涙を感じたが、それを拭《ぬぐ》おうともせず、なおも石油ポンプの把手を、力のかぎり、根かぎり押した。
 と、このとき、はるかに宿舎の方にあたって、
「わア」「わア」という、喊声《かんせい》とも、悲鳴ともつかぬ、人々の叫喚が、嵐のように湧《わ》き上った。格納庫が火を吹いたので、それを発見した一人が、度を失って、人々に告げ廻ったのだろう。人々は、半狂乱になって、我先に、こちらへ駈《か》けてくる。それが、火焔《かえん》の明りではっきり認められた。
 僕は、格納
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