て、一路日本へ針路を向けようじゃないか……。なアに、万一、この冒険が失敗したら、そのときは、潔《いさぎよ》く、海中の藻屑《もくず》となったらいい」
「よくわかりました。僕はやります」
「では、君は、夜半に格納庫を襲うてもらおう。わしは、同時刻に動力所を襲うて、彼処《あそこ》を占拠してみせる。君は、格納庫に火を放つのじゃ」
「爆弾がございますか」
「爆弾のような化学兵器が、手に入るくらいなら、こんな命がけの冒険はせんよ。爆弾があれば、宿舎に投げつけて、技術員も、雑役夫も、みんな一気にやっつけることが出来るじゃないか。われわれは、敵に監視されている、全くの無力者だ。そこで、非常手段をとらねばならぬ」
 老博士は、僕の耳元へ、秘策を私語《ささや》いた。

     格納庫夜襲

 遂《つい》に夜襲のときが来た。
 海洋の真只中《まっただなか》に浮んでいる人造島が、深い眠りに陥っているところを狙《ねら》うのだ。
 白堊《はくあ》の宿舎には、技術員も、雑役夫も、みんな正体もなく眠っている。外部からの襲撃をうける心配のない人造島では、歩哨《ほしょう》も、不寝番《ねずばん》も必要がなく、ただ、動力所
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