のように美しい氷上を歩いている。
「北極から流れて来た氷山じゃないぞ。島の上に氷を張りつめたのかしら。いや、それなら家も、格納庫も、氷に鎖《とざ》されているはずだ。だいいち、こんなに太陽が輝いて、暖かいのに、氷が溶けずに、大理石のように輝いているのは可笑《おか》しい」
僕は、いよいよ不審におもっていると、不意に扉《ドア》が開いて、水色の作業服を着た一青年が入って来た。彼は、僕をじろりみて、いきなり、
「君の国籍は?」と妙なことを訊《たず》ねた。
「僕は、日本人です」
「うむ……それはいかん。日本人であることが不幸だった。せっかく救《たす》けてあげたが、このまま帰りたまえ」
「え!」
「われわれは、外国の漂流者を救助する義務はないのだ。すぐに、島を退去したまえ」
その声は、氷よりも冷たく感じられた。
「どうして、僕を追払おうとするのです」
「われわれは、水難救済事業に携っているのではない。しかも、君が、日本の少年であることが不幸だった。君を、この島に滞在させるわけにはいかんのだ」
「……」
「その理由というのはつまり、この島は、人造島だからだ」
「えッ、人造島?」
「そうだ。これは、
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