氷山と鯨は、刻々にその距離を狭めていくようだ。万事休矣《ばんじきゅうす》?

     人造島の秘密

 あくる朝、僕は、病室とおぼしい、明るい室の、寝台のうえで眼を醒した。僕の身体は、ぐるぐる巻に繃帯《ほうたい》が施されてある。きのうの朝、鯨の屍骸に跨《またが》ったまま、潮流に押流され、急速力で氷山に近づき、ドカンと衝突したまでは覚えているが、そのとき、氷山の一角に五体を強く打突けて人事不省に陥ったまま、この病室に運ばれたものとみえる。
「それにしても、ここは一体、何処だろう。氷山に、こんな立派な病室があるわけはないし……」
 僕は、夢見心地で、寝台を降りて、ふらふらと室内を歩き廻った。
 窓から、朝陽がいっぱいに差込んでいる。戸外からみると、おどろいた。やっぱり氷山、というよりか、氷の陸地である。平坦《へいたん》な氷の島のうえに、白堊《はくあ》の家が建っているのだ。その一室が、病室になっている。いや、白堊の家だけではない、工場もあるし、動力所とおぼしい建物もあるし、飛行機の格納庫さえある。しかも、氷上には、単葉の飛行艇が二機、翼《よく》を休めているし、水色の作業服を着た人々が、水晶
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