うおもいながらも、うとうととなる。そこで僕は、怪物の背中で、腹這《はらば》いになった。これなら、なかなか転げ落つることもあるまい。
 僕は、正体のわからぬ怪物の背中で、そのまま、深い眠りに落ちてしまった。

     あッ! 氷山?

 幾時間眠ったろう。ふと眼が醒《さ》めた。
 朝の太陽が、僕の背中をあたためてくれた。
「おお、こいつは、素敵《すてき》素敵」
 僕は、怪物の背中に起き直って、四辺《あたり》の景色を眺め入った。相変らず、水また水の、茫々《ぼうぼう》たる海原だが、いつか北洋の圏内を去ったとみえて、空気も爽《さわや》かで、吹く風も暖かだ。
 もう、凍死することはあるまい。だが、まだ怪物の背中に乗っかっているのだ。幸い、ゆうべは、怪物も、海中へ沈まずにいてくれたから、たすかったようなものの、何時《いつ》、もぐり込むかわからぬ。眼が醒めて、元気づくと、こんどは、怪物の背中にいることが不安になって来た。
「それにしても、怪物は一体、何物だろう」
 僕は、怪物の正体を突止めるために、背中を歩き廻った。なるほど、駆逐艦ほどもある大きさだ。歩きながら、よく見究めると、やっぱり鯨だった。
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