している。
「こいつア、海馬や、海象よりも、もっと大きな怪物かもしれんぞ」
 僕は、いくたびか辷《すべ》り落ちて、やっと、怪物の背中へ這《は》い上ることが出来た。そこは、やはりつべつべしているが、小丘のように広い。足もとに気をつけて、歩いてみると、可成《かな》りある。
「駆逐艦ぐらいあるぞ。鯨かな」
 僕は、不安におもったが、ええままよとばかり、怪物の背中で肘《ひじ》を枕に横になった。鯨なら、やがて海底へ沈んでしまうだろう。そのときは、それまでだ。一緒に海底見物と洒落《しゃれ》ようか。
 僕は、そんな暢気《のんき》なことを考えて、悠々と怪物の背中で横になってみたが、怪物は、一向に海底へ沈んで往く様子もない。僕をのせたまま、潮流に乗って、何処《どこ》へか流されて往くようだ。
 怪物の背中に横になっていると、夜風が肌を刺すようだ。しかし、浮袋につかまって、巨浪に飜弄《ほんろう》されているのとちがって、飛沫《ひまつ》を浴びることもなければ、手足を動かすこともいらない。濡鼠《ぬれねずみ》になって寒いが、極度に疲れているので、いつか睡気《ねむけ》を催して来た。
「眠って転げ落ちたら大変だ」
 そ
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