だが、動物にしては、これはまた、変に茫漠《ぼうばく》として大きい。
「何でもいい。気力を失って、凍死しかかっている僕の頭を、コツンと叩いて意識をかえしてくれた怪物は、僕の生命の恩人だ。ありがとう」
 僕は、心からそう感謝して、怪物の肌を撫で廻した。すると、それは海の怪物海馬か、海象か、鯨といった感じである。
「あッ! いけない。海馬や鯨だったら、こうしてはいられない。いまに尾鰭《おびれ》で一つあおられると、参ってしまう。こいつは剣呑《けんのん》剣呑……」
 そこで、周章《あわ》てて、怪物の身辺を離れた。が、離れて暗闇《くらやみ》の海に漂うと、やっぱり心細い。気力を失いかけている僕は、このまま数時間、寒汐《さむしお》に漂うたら、ふたたび意識を失ってしまうだろう。
「よしッ! 海馬でも、海象でも、何でもいい。そいつの背中を借りて、一息入れるとしようか」
 僕は、またも、怪物に近づいた。そして、小山のような背中によじ登ろうと試みた。海馬や、海象なら、こうして僕に、いくたびか取縋《とりすが》られると、うるさくなって、海へもぐり込むにちがいない。だのに、一向気にもとめず、僕の為《な》すままに任
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