、もぐらもちのように意気地《いくじ》がなく、浪に乗り、浪に沈みながら、悲鳴をあげている。
「ああ。ああ……」
 そして、いつのまにか、僕との距離が遠ざかってしまった。
「おーい」
 といっても返事がない。
「しっかりしろ」
 振りかえって叫んだが、もはや、姿も見えなかった。虎丸は何処と、顔をあげてみたが、もうそれも僕の視野から消え失せてしまった。
 僕は、只《ただ》一人、浮袋《ブイ》に身を托して、涯《はて》しない洋上を、浪に漂わねばならないのだ。

   二 抹香鯨《まっこうくじら》と人造島

     海の怪物

 その夜半。真暗な洋上で、僕は、何物かに、頭をコツンと叩《たた》かれたような気がして、はッ! として、失いかけていた意識を、取返すことができた。
「おや! 何だろう」
 手探りに、四辺《あたり》を探ると、怪物は、ふたたび僕の頭をコツンと叩いた。
「畜生! 誰だ」
 が、手に触れたものは、変に冷たい、大きな、妙に不気味な怪物だった。
「岩礁かな」
 とおもったが、撫《な》で廻してみると、いやにつべつべ[#「つべつべ」に傍点]した代物《しろもの》だ。
「動物のような感じだぞ」

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