キ使って、不用になると、帰航の途中、海ン中へ放り込んでしまうのだ」
僕はこれをきくと、おもわず、義憤の血の湧《わ》き立つのを覚えた。
「ひどいことをするなア。こんな船に、一刻も乗ってられやしない。途中で、脱船しなくちゃ……」
「そうだよ。僕は、毎日そのことを考えているのさ」
「だって君は、船長に可愛《かわい》がられているから、海ン中へ放り込まれる心配は無いじゃないか」
「いや、僕も東洋人だ。同じ東洋人のために、兇暴《きょうぼう》な白人と戦わねばならない」
陳君は、昂然《こうぜん》と肩を聳《そびや》かした。
それにしても、どうして、この怖ろしい密猟船を脱することが出来ようか。
脱船か奪船か
虎丸《タイガーまる》は、案の定、北千島の無人島オンネコタン島近海で、白昼公然とラッコやオットセイを密猟した。それから、日本の極北パラムシロ島近海へ往って、何食わぬ顔で、日本の漁船から、紅鮭《べにざけ》をうんと買込んで、ラッコやオットセイといっしょに、冷凍室に詰込んでしまった。
それは、日本の監視船や、警備艦の眼を、巧みに脱《のが》れるためだった。こうしておいて、ふたたび、千島の
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