、東洋人は、安い給金で雇えるからだろう」
「うん、それもある。だが、もっと他にも理由《わけ》があるよ。だいち、この船は、どろぼう[#「どろぼう」に傍点]船《ぶね》だってことを、君は、知ってやしまい」
「え! どろぼう船?」
「叱《し》ッ!……この船はね、表面は、カナダから日本の北千島へ、紅鮭《べにざけ》を買いにいく冷凍船とみせかけているが、じつは、千島の無人島で、ラッコやオットセイを密猟する、国際的どろぼう船なのさ」
「へえ。じゃ、僕等も、どろぼうの手下にされたのかい」
「まアそうだ。しかも、さんざ、コキ使ったあとで、密猟が終り、満船して本国へ帰る途中、臨時に雇った水夫や、君たちのようなボーイを海ン中へ放り込んでしまうに都合がいいからだよ。つまり、東洋人を人間扱いにしていないのだ」
「どうして、海ン中へ放り込むのさ」
「この船の船員は、みんなピコル船長の乾児《こぶん》だろう。だから安心だが、臨時に雇った水夫やボーイたちは、上陸すると、この船の悪事を、みんな洩《もら》してしまう。それが怖《おそ》ろしいので、毎年横浜や函館で、東洋人の水夫や、ボーイを雇って、北洋へ連れて往《い》き、うんとコ
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