の方へ近寄ってきて訊《たず》ねた。
「あの、怪老人に、一杯|喰《く》わされたぞ」
「うむ」
「火薬庫が、一向に爆発しないじゃないか。あの怪老人、うまく僕等をだましたのだ」
「なるほど……」
 水夫は、今になって、しきりに感心している。
「こうなれば、船に泳ぎついて、あの怪老人を退治てやらねばならん」
 僕は、巨浪に逆《さから》って、抜手を切った。水夫は、そのあとを追って、
「だが、船は、潮流に乗って、あの速さで走っているぜ。とうてい追いつけまいよ」
「だが、口惜《くや》しい。あんな、老人にだまされたかとおもうと……」
「それに、あの老人は、ひょっとすると、亡霊かもしれんぜ」
「どうして?」
「だって、本船には、最初からあんな老人が乗組んでなかったはずだ。……そ、それに、乃公《おれ》ア見たが、あの老人には、足が無かったようだぜ」
「そんなことがあるものか。亡霊など出てたまるものか」
「いや。虎丸《タイガーまる》は、これまで北洋で、たくさんの東洋人を殺したので、その亡霊が、老人の姿になって現われたのだろう。乃公は、たしかに見たよ。あいつには、足が無かった」
「じゃ、亡霊が、何のために、僕等
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