これに気がつくと、水夫は、真蒼《まっさお》になって顫《ふる》え上った。
 僕は、このまに船橋《ブリッジ》の柱に架けてあった浮袋《ブイ》を外して、それを身に着けた。何しろ、あと二、三分で、一千五百|噸《トン》の汽船が、爆破して、木葉微塵《こっぱみじん》になるのだ。愚図愚図していられない。僕は、素早く浮袋を身に着けると、そのまま、身を躍らして、海中に飛込んだ。
 このさまをみた、豹のような水夫も、急いで、浮袋を身に着けると、僕にならって、海中へ身を躍らした。

     亡霊の仕業か

 北太平洋の浪《なみ》は、さすがに高かった。
 僕も、水夫も、巨浪に飜弄《ほんろう》されながら、懸命に、本船から遠ざかろうと努めた。
 が、二分|経《た》っても、五分過ぎても、冷凍船|虎丸《タイガーまる》の火薬庫は爆発しそうにもなく、本船は悠々潮流に乗って、可成《かな》りの速さで、僕等を遠ざかって往《い》く。しかも、甲板のうえでは、白衣の怪老人は、僕等を見送りながら、相変らず、冷笑をうかべている。
「失策《しま》った!」
 僕は、おもわず叫んだ。
「ど、どうした?」
 水夫は、飛沫《しぶき》を避けながら、僕
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