たりとなってしまった。
「しっかりしろ」
 僕は、猛然と立ち上った。
「何故、罪の無い陳君を射殺《うちころ》したのだ」
 豹のような水夫は、ピストルを、僕の胸板《むないた》に突《つき》つけたまま、
「陳の奴は、油断がならねえからやっつけたのだ。小僧、てめえだけは、たすけてやろう」
「いや、断じて妥協はせんぞ。陳君の讐を討ってやろう」
「ハハハハハ。無手《むて》で、このピストルに立向うつもりかい。いくら、日本の少年でも、そいつはいけねえ。乃公《おれ》に降伏しろ」
「黙れ! 日本男児の、鋼鉄のような胸を、射貫《いぬ》けるものなら、討ってみろ」
「ハハハハハ。慈悲をもって、たすけてやろうとおもったが、陳と一緒に、冥途へ往きていなら、一思いに眠らしてやるさ。観念しろ」
 豹のような水夫は冷笑をうかべて、ピストルの引金に指をからませた。
 と、このとき、何処《どこ》からか、不意に、
「ワハハハハハハ」
 と、突破《つきやぶ》ったような笑声が起った。それは、豪快な笑いにかかわらず、僕にも、豹《ひょう》のような水夫にも、死人の笑いのように冷たくきこえたので、振りかえった。
 おおそこには、いつのまに
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