まで射殺して、たった一人で、太平洋を漂流するなンか、心細いだろう」
豹のような水夫は、肯《うなず》いて、僕等の麻縄を解きはじめた。
怪老人の冷笑
麻縄を解かれて、やっと自由になった。僕も、陳《チャン》君も、雀躍《こおどり》して、中甲板を飛び廻った。
と、豹のような水夫は、何をおもったか、不意にまた、陳君の背後に、ピストルの銃口を向けた。
「あッ! あぶない」
僕は、おもわず絶叫したが、すでに遅かった。兇暴な水夫の放った一弾が、陳君の左肩《さけん》を貫通した。
「あッ!」
と一声、悲鳴をあげて、陳君は、よろよろとその場に倒れてしまった。
「卑怯《ひきょう》だ!」
僕は、水夫を睨みつけながら、駈け寄って陳君を抱いた。
「しっかりしろ。傷は浅いぞ」
血に染った陳君は虫の息で、
「や、山路君。……く、口惜《くや》しい」
「しっかりしろ」
「おなじ、東洋人に、や、やられるとは、……く、口惜しい」
「陳君! か、讐《かたき》は討ってやるぞ。しっかりしろ」
「た、たのむ……。もう、僕は、だ、駄目だ……」
陳君は、僕の手を、かたく握り締めたが、しだいにその力が失われ、ぐっ
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