銃声が起った。
「あッ!」胸を射貫《いぬ》かれて、大男は、もろくも、甲板に殪《たお》れてしまった。
ピストルを握った、豹《ひょう》のような水夫は、続けさまにピストルを乱射した。そして、中甲板を逃げまどう残りの水夫の背後《うしろ》に、一発お見舞申してしまった。甲板は血に染み、四人の水夫の屍骸《しがい》が散乱した。ピストルを握った水夫は、会心の笑みをうかべて独言《ひとりご》った。
「これで、きれいさっぱりした。宝船の主人は、つまり、この乃公《おれ》だ」
彼は、麻縄《ロープ》でぐるぐる巻にされ、甲板に転がっている僕等に気がつくと、また、険しい眼付で、ピストルの銃口を向けた。
「待ちたまえ」僕は、落着払って云った。
「何だ!」
「僕等は、冷凍室のラッコなど欲しかないよ、……何よりも、君の勇気に感心した。改めて君の部下になろう」
「…………」
豹のような水夫は、豹《ひょう》のように、疑深く、なおもピストルを、僕の胸に擬《ぎ》したままだ。
「ね、君! この船は、機関《エンジン》の故障で航海が続けられないのだぜ。つまり、漂流船だ。この先、何十日、何百日、海洋を流されるかしれないじゃないか。僕等
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