唄《うた》と舞踊とが、何の感興もなく初まって何の感興もなく終った。それだのにそれが済むと、席は待ち構えていて拍手|喝采《かっさい》した。それらがすべて馬鹿馬鹿しく見えてならなかった。自分の膳《ぜん》の中にはいつも盃《さかずき》が二ツ三ツあった。お酌してくれる者があるままに自分はぐいぐいあおっていた。しかしその間にも自分の目、自分の耳は数限りもない小さな細々した不愉快と忌々しさとを見聞した。例えば俗悪なる階級的気分、高慢、追従《ついしょう》、暗闘、――それから事務員某の醜悪見るに堪えないかっぽれ踊[#「かっぽれ踊」に傍点]り、それから、そうだ、間もなく誰かと何かしきりに罵《ののし》り合ってあげくの果てが殴《なぐ》り合いとなり、皿《さら》類のこわれる音、……その争いがまたいろいろのこんたん[#「こんたん」に傍点]を含んでいるので、外務主任のKが社に不平を持っていて?ニしてそんな幕を演じさせたのだとか……自分はもう大分酔っていた。自分の前後左右が無性と愚劣に見え出して来た。馬鹿馬鹿しいのを通り越して一切がただもう面倒くさくてしようがなかった。その時ふと目をあげると、自分の前に一人の雛妓が――
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