しょんぼり立って、人でも待っているらしく庭をながめていた。池の水の面《おもて》には雨が描き出す小さな波紋が、音もなく夢のように数限りもなくちらちらと入り乱れていた。途《みち》で一緒になった丸顔の小造りの芸者が、下の方のよそのお座敷へ来ていた。……右隣りへは一面のS文学士が坐った。左隣りには三面の編輯《へんしゅう》にいるAという早稲田《わせだ》出の新進作家がいた。自分を社へ紹介してくれた人で、そんなに親しくはないが旧《ふる》くから知ってるので窮屈でなくてよかった。その次ぎが二面のT法学士に三面のY君、……このあたりは、社内の他の人たちから「新人」と呼ばれている一群で占領されていた。灯がつくと、芸者と雛妓《おしゃく》とがどやどや厭《いや》に品をつくって入って来た。彼らはいずれも(たかがへぼ[#「へぼ」に傍点]新聞記者が)といったような、お客を充分みくびった顔をしてよそよそしい世辞笑いをしながらお酌《しゃく》をして廻《まわ》った。ずらりとそこに居列《いなら》んだ面々も、(そんなことは万々承知だ)といったような、いかにも見透かしたようなふうをしてその酌を受けていた。そのうちにおきまりの三味線と
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