近くの料理屋に宴会でもあって、それへ招かれでもしたのか濃艶《のうえん》におめかしした芸者衆が幾人も幾人も自動車で運ばれて通っていた。
曽根は(誰だかうまくやってる奴があるな)と思った。どことかに、自分に隠れて、自分の目のとどかないところに、自分などの知らないことで、いいことがどっさり[#「どっさり」に傍点]あることと思うた。淋しいような、やきもき[#「やきもき」に傍点]とそそられるような気がした。するとついさっきまで、お伽噺の筋を一生懸命に考えていたことなどがあまりに意気地なく、あまりに馬鹿馬鹿しいような気がした。何という廻りくどいことだ、……いや、俺は一体|何歳《いくつ》だというのだ。二十六七と言えば、花ならば今が満開だ。まったく、満開がいつまでも続くものか、「青年は人生の美しき口絵!」こんなことを誰やらが言っている。「美しき口絵」そのとおり、そのとおり。……しかるに
(おい、曽根君、当年二十七歳の美男子、君のその縮こまり方と来たらどうだい。棒切れに突かれた蝸牛《かたつむり》みたいに恐ろしく引込み思案を初めたその君の心は、……お伽噺とはほんとに好い思いつきだよ。ふ、ふ、川へ落ちたぐ
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