何も浮んで来なかった。ただ夢のようだと思うほかはなかった。
燈《あかり》のない暗い廊下みたいなところを通って、とある部屋の中へ押し入れられた。暗闇《くらやみ》の中を手探りすると、畳の敷いてない床に、荒らい毛の毛布があったので、それにくるまって横になった。
横になってしばらくすると、鼻の穴の奥が痛がゆいような感じがした。それに続いて咽《のど》が何かにむせるような、それから何物かに強く口を塞《ふさ》がれて、窒息しそうな堪えがたい苦しみの記憶が、ふと、全く思いがけなく彼に蘇生《よみがえ》って来た。と、彼の頭の中に、ある慄え上るような心持ちが電光のように閃いた。しかし彼はひどく疲れていたので、いつかうとうとと深い睡眠に陥ってしまった。
再び目が覚めた時は、闇がいくらか薄らいでいた。手足がいやに冷たく冷えていた。頭は、棒のようなものに撲《なぐ》られでもした後のように不健康な不愉快な響きで充《み》ちていた。
彼の入れられていた部屋は、これはまた何という脅喝《きょうかつ》的な造り方の部屋であろう! 三方はコンクリートの壁で囲まれ、他の一方にはその面一ぱいに四寸角の柱を組んだ格子《こうし》がは
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