して笑い出した。そして横手の方にある大きな板の衝立《ついたて》のようなものの蔭《かげ》へ向って、
「奴《やっこ》さん正気がついたらしいや、おい、△△君、あっちへ連れて行ってどこかへ寝せてやるといいよ」と叫んだ。
 年の若い、まだやっと二十二三になったかならないかの巡査が一人、佩剣《はいけん》を鳴らせながらガタガタと現われて来た。その若い男は、卓の男がまだ笑っているのを見ると、自分もにこにこしながら、
「気は確かかな。大変にのんだくれやがって、ざまあなかったぞ。そしてなんだ、貴様はもう少しで死ぬところだったぞ」
 彼は思わず、熱心に
「一体どうしたというんです?」と問い寄った。
「呆《あき》れ返った奴《やつ》だ、あれがちっとも覚えがなけりゃ、あのまま死んだって覚えがないというものだ。――川へ落ち込んだのだ。一旦《いったん》沈んでしばらく姿が見えなくなってしまってな、――署員総出という騒ぎだ」
「全く危険であった」と、そばにいた他の一人の警官が言った。
「野郎、寒がってぶるぶる慄えていやがる!」
 こんなことを言って、彼の丸裸を指差して笑っている連中もあった。
 彼の頭にはそれらしい記憶は
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