なしに昔しの相弟子《あいでし》の店へ寝泊《ねとま》りまでさせてもらって仕事をしているのだ。苦労人だからああしてがみがみと言わないでいつも好い顔を見せているが、あれは是非何とかしてやろう。無理しても近いうちに持って行ってやらなければならぬ。だが、この俺はどうだ? また月末が思いやられる。何と法を講じたものか? と言って今さらどうなるものか、また辛《つら》い思いをしてもどこかへ泣きついて借金をするほかはない。だが、俺の知っている奴《やつ》に誰が金を持っている? 金を持っているような知己のところへは、どこもここも、義理を悪くしているから行くことが出来ない。……昨夜宿めてくれた長谷川《はせがわ》は、そんなに困っているならお伽噺《とぎばなし》でも書いたらどうか、少年雑誌の編輯《へんしゅう》をしている人を知っているからそれへ売りつけて上げることにしてもいい、と言ってくれた。そうか、まあ、これからそんなことでも少しずつ初めることかな。……こんなことを思いながらぶらぶら当てもなく銀座の通りへ出た。
 お伽噺などと言ったところで、どんな風に書いて良いものか、それにこのごろの子供はどんなことを好くか、それ
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