をちっともあげてもらえないことや、窓のこわれたのなどをいつまでも修繕しないでおくことや、いろいろそんな話をしていたんですよ。そうすると、その中の一人が、一代の警句でも見つけ出したかのような得意な調子で、「収穫時に肥料をほどこす農夫もあるまいよ」だって。全くそのとおり、そのとおり。私もそれに大賛成です。……)
曽根はなお、次ぎから次ぎへとこんな風にして飽かず続けて行った。そしてその日は一行も書くことがなくて、五時少し過ぎると、夜の交代の来るのを待たずにSたちの連中につれられて社を出た。
曽根はそれから三四日自分の下宿に帰って行かなかった。今日も社が退《ひ》けて外へ出たが、どうしても下宿へ帰える気はしなかった。今ごろのっそり[#「のっそり」に傍点]と帰って行けば、何か面白くないことの二つや三つはきっと起っているに相違ない。第一番にあの主婦《おかみ》がやって来て長々と例のやつを催促する。それから約束しておいたのだから、昨日は洋服屋が残りの金をとりに来たに相違ない。あの洋服屋も可憐《かわい》そうな男だ、四十幾つになって、店はつぶれる、妻には先だたれる、身を寄せるところさえもなくなり、仕方
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