ーッと入って来た。(この社は隅から隅まで俺《おれ》の所有に属しているのだ)といったような、例えば、牧場主が自分の牧場を見舞う時のような得意さと、(俺のお蔭《かげ》で……いや、お前たちのうちどの男でもこの俺の意志一ツで追い出すこともどうすることも出来るのだ)といったような尊大さとが、湯気かなどのように朦朧《もうろう》と彼の身体から立ちのぼってるのが感ぜられた。
 曽根はその方へ顔を向けた。その機《はずみ》に自分の眼がはからずも社長の鈍く冷たく光ってる眼とちら[#「ちら」に傍点]と途中で出会った。曽根はきたない物でも見たように顔をしかめた。しかし元気を出して、また腹の中で独言をはじめた。
(おや、社長さん、……馬鹿にご機嫌《きげん》が悪いようですね。……人の噂《うわさ》じゃ、このごろ大分金が溜《たま》ったというじゃありませんか。たまには、せめてにこにこした顔くらい見せたっていいじゃありませんか。その方が因果に良うございますよ。……そうだ、それでよろしい、そこに立つとちょうど全体が見渡されます、ご監督ですかな、……)
 曽根は何だか愉快になって来た。そしてまた続けた。
(社長さん、ちょっと思
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