歩きの記者たちの卓がずらりと規則正しく列べられてある。そのあたりには絶えず煙草《たばこ》の煙が朦々《もうもう》と立ちあがり、雑然とした話し声、何か急を報ずる叫び声、電話をかける間《ま》ののびた話し声、――それらに混じって誰がやっているものか朝から晩まで碁を囲む音がいかにものんきそうに、社の誰やらがよく言う「動中静あり」という言葉のようにパチリパチリと聞えている。
 曽根は幸いその日は割り当てられる仕事がなかったので、煙草をふかしながらあたりを眺《なが》めまわしていた。
(事によったらこの部屋も今日が見おさめになるかも知れない)こんな気がして今さらのようにつくづくとあたりを見た。壁、窓、カーテン、天井、天井からぶら下がっている幾つかの電燈、隅々の戸棚《とだな》、蓋《ふた》のしてある暖炉、大きな八角時計、晴雨計、寒暖計、掲示板、――壁にはところどころに何者の趣味だか、いや何の意味だか呉服店だのビール会社だのの広告絵、大相撲《おおずもう》の番附などが麗々しく貼《は》られてある。と思うと、万国地図、日本地図、東京地図などが不秩序にあちらに一ツこちらに一ツばらばらに懸《か》けられてある。また、何
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