こうして君たちと一緒になってこんな仕事をしているが、いつ、いや明日にでも社を止《よ》すかも知れないんだ。僕には「芸術」という立派な職業があるのだから、本当を言えば僕がその上に新聞記者なんかしているのは全くお羞かしいような次第なのだ。僕はいつだって、一日も早くこんなことを止さねばならぬと思っていないことはないのだ。心にもないこんな片々たる仕事をして、まるで身を売るような卑しいことをして貴重なる生命を一時でも過ごすということはないのだ。――僕がこうして君たちと一緒になっていることが、僕自身にとってどれほど忍びがたい屈辱であるか)
SとMとAと、それに二面のT法学士も加わって、四人はしきりにいろいろのカフエの名を並べて、あれかこれかと今晩の祝盃を挙げる席場の選定をしていた。
曽根はまた独《ひと》りで腹の中で、(祝盃をあげるなら君たちだけであげてくれたまえ。僕は多分、身体の工合がよくないからはなはだすまないが……なんて嘘《うそ》をついて途中から逃げ出すかも知れないよ)こんなことを言っていた。
第一版の締切時間が迫って来たので、いずれも自分の卓へ帰って行った。
その日はちょうど、政治界の
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