たとか、しないとか。松本もそんな地盤の上でいくら働いても働き甲斐もなければ、また働らく精もないというのだ。何やかや一切が気に入らないので毎日酒を飲んでごろごろしているので小使いがなくなり、なくなりしてこの月になって社へちょくちょく[#「ちょくちょく」に傍点]月給の前借りをやりだし、今じゃもう月末になっても貰《もら》う分が一文も残っていない、それに下宿の払いも二月ばかりたまっているし、そんなことも言った。
しかし、おしまいにはやがて昂然《こうぜん》とした調子で、「悲観することはないさ、やがて一切のことが皆どんどん経過してしまうのだ。いかなる苦悩も、いかなる困窮もいつかまた『時』とともに我々から過ぎ去り、消え去ってしまうのだ」こんなことを語り合うのだった。
翌朝、寝床を離れた時、曽根の頭は呆然《ぼんやり》していた。
蒸し暑い光と熱とを多量に含んだ初夏の風が、梅雨《つゆ》ばれの空を吹いていた。水気に富んだ低い雲がふわふわとちぎれては飛び、ちぎれては飛びしていた。地上にはそれにつれて大きな斑《まばら》をなして日陰と日の照るところとが鬼ごっこでもしているように走り動いていた。せかせかする
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