、主婦《おかみ》さんもこのごろは金の催促がうまくなったこと! それにしても、まだ年が若いのに、この人もほんとに気の毒な……)こんなことを心に思うて黙っていた。
 主婦はまた続けた。
「私の申し上げようが手ぬるいと言っていつも私は良人《やど》に叱《しか》られるんですよ。かんしゃくを起こして酷《ひど》く私を殴《う》ちのめすんです。ほんとにやりきれやしない」それもみんなあなた方のせいだ。と言わぬばかりに言う。しかし彼は次のようなことを思うてやっぱり黙っていた。
(なあに、たかが五十円足らずの金じゃないか。いつまでやらないと言うのではなし、――よしまた全然それが払えないで終ったとしたところで、それが僕の全生涯《ぜんしょうがい》から観《み》て、どれほどの不善でもありやしない)
 何と言っても彼が黙っているので、主婦は根敗けして、
「ほんとに困ってしまう、――それでは月末には是非とも間違いなくお願いしますよ」と言って思いきりわるそうに出て行った。
 曽根は、今日は一日社も休み、「自分の生命」のために、そんな小さなことに煩わされずに、もっと偉《おおき》いことについて静かに瞑想《めいそう》しようと思う
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