り、
「どうも、今何にもないんです。どうぞ今少し待って下さい。そのうちにきっとどうかしますから」と言った。
 主婦は(またか)といったような顔つきをしてしばし黙っていたが、
「わたしどもでも大変に困っているんですよ。……それに、はじめ月の五日にいくらか出して下さるはずでしたのにそれも駄目《だめ》、十日までにはこんどきっとということでしたのに、それもなん[#「なん」に傍点]なんでしょう。家でも都合があって払いの方へもそう言ってあるんです、……あんまりなん[#「なん」に傍点]すると家がみんな不信用になって商売が出来なくなってしまうんです。……是非何とかしていただかなければならないんですが、……」
 と言って寝ている曽根の顔を覗くようにして見た。
 いつもなら、曽根はこう言われればついそれにつり込まれてその気になり、本当に自分が大変に済まないように思い、出来ないのは知りつつも(両三日中にはきっとどうかしますから)といった工合に出るのだが、今日はそれを言う元気さえなかった。そしてかえってあべこべに心の中に余裕があるようであった。それに布団の中にいたので多少気が落ちついていたものと見えて、(まあ
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