見て何だらうとのみ思うてゐた。そしてそれが皆松の花粉であるといふ事を知つた時に、それを親しく指先につけてみたりして興がつた。
四
彼はその秋にまた、裏の畑を半町歩ばかりつぶしてそこへ小松を植ゑた。その翌年にも又小松を百本ばかり植ゑた。こんな事をしてゐるうちに、第一年に植ゑた小松はもうその当時の高さの二倍にも三倍にも延びて行つた。風が吹けば一人前に蕭々《せう/\》として鳴るやうになつた。
そしてそれにつれて老医師の考へもこの頃では大分最初と変つてゐた。彼はこの松林を只《たゞ》庭として賞《め》でようなどと云ふ考からは遠く離れてゐた、彼は誰にもそんな事は口外したことはないが、心の中ではかう思うてゐるのである、自分はこの松林の中へどこか自分の一番気に入つた所を選んで、そこへ自分の墓をたてよう、真白ろの大理石で墓をたて、その下に心静かに休みたい。永久に。――彼はこの頃|夜更《よふ》けて、物静かに鳴り渡る松風の音を聞きながら、あの下に、あゝあの下に、かう思ふのが何よりの楽しみであつた。冬になれば広い松林の上へ真白ろな雪が降るであらう。そして、この林の木がもつと/\大きくなつて
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