は言葉には言ひ表はせない程うれしい事であつた。何れも半ヶ年ばかり前から分つてゐた事であつたが、愈々《いよ/\》かうなつてみねば多少の心配もあつたので、殊《こと》に第四男の文夫の事に就《つ》いては、これでこそどうやらあの子の出世の道もそろ/\開かれたと云ふものだ。こんな風に考へると、これでやうやく長い/\間の自分の重荷が本当にすつかりとれた様に感ぜられるのであつた。
 春風が暖かく吹いて、黒い土が久方ぶりに表はれて来た。さうすると又人足を呼びあつめて今度は松の木の下、庭一面に青い芝生《しばふ》を敷きつめる事に取りかゝつた。
 小松共は手入れが親切だつたので一本として枯れたのはなかつた。皆元気よく春を迎へて新たなる生長を営みはじめた。
 やがて枝々の先きが柔かく膨《ふく》れて来て、すーツと新芽が延び出した。そしてその根元の処《ところ》へ小さな淡褐色《たんかつしよく》の蕾《つぼみ》が幾つも群がつて現はれた。
 とかくするうちに松の花の黄ろい花粉が、ぽか/\と吹く風と共に烟《けむり》のやうにあたりに散るやうになつた。最初老医師は庭の隅々《すみ/″\》や置石の陰やに黄ろい粉のやうなもののあるのを
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