老医師の家は、ごた/\賑《にぎや》かに取りこむやうになつた、植木屋が毎日つめかける、人足が来る、石屋が来る、老医師の考では、つまり自分の閑散な老後を庭いぢりでもして暮らさうといふのであつた。彼がこれを選んだのは、これがまあ自分の手近な事の中で一番清らかな且つ静かな事であると考へたからである。
家の前の、半町歩《はんちやうぶ》ばかりの桑畑をつぶして庭を拡げた。
植木屋は色々の木を色々に取まぜ、或所へは谷合のやうな趣きをとり、或所へはまた築山《つきやま》などを拵《こしら》へたりした方が、と勧めてみたが、主人はそんな風な事にはあまり興味を持たなかつた。出来るならば、自分の庭全体を一つの大きな松林にしたいと云ふ様な考へをもつてゐた。そして植木屋の云ふのとは反対に今まであつた木も松でないものはなるべく之《これ》を取のぞくやうにした。
そのうちに朝な/\霜がおくやうになつた。掘りかへしたボソ/\した土へ霜柱が立つて、その辺に捨置いてある鍬《くは》の柄のやうなものにまで真白に霜がおき、そして松のチカ/\ととがつた針のやうな葉の一本々々にも白銀の粉でもふりかけたやうに美しく霜が光るのである。老医
前へ
次へ
全11ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
相馬 泰三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング