も所持しようとしてはならない。」かういふのが彼のきまり文句であつた。
「人々がみんなさういふ考の上に生きてゆければ、その上に何の革命も必要としない。」
 定連《ぢやうれん》の一人に、病気で都会の学校から帰つてゐる大学生があつた。彼は一種の瞑想家《めいさうか》で、「自分には、この世に、生れたり死んだりするものの外に何か永劫《えいごふ》に変らない、少しの揺《ゆる》ぎすらない或《あ》る理法と云つたやうなものが存在してゐるやうな気がしてならない。」などと、静かな調子で語り出すのが彼の癖であつた。
 欣之介は、彼自身、自分の考へてゐることを他の人達のやうに口に出して話すことをあまり好まなかつたが、さうした人達のさうした話を凝《ぢ》つと聞いてゐるのが愉快で堪《たま》らなかつた。
 彼の小舎の外側には木蔦《きづた》が一ぱいに纏《まと》ひつかせてあつた。春先きから夏へかけて美しい柔かな葉が繁《しげ》つて、柱から羽目から屋根から凡《すべ》てを、まるで緑色の天驚絨《ビロウド》の夜具を頭からすつぽり[#「すつぽり」に傍点]ひつかぶつたやうに掩《おほ》ひ隠してしまつた。彼は又、その家の周囲《まはり》に薫《かん
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