》ばしい匂《にほ》ひを放ついろいろの草花を植えた。彼の部屋の、書卓《テーブル》を据《す》ゑてある窓へ、葡萄棚《ぶだうだな》の葉蔭を洩《も》れる月の光がちら/\と射《さ》し込んだ。たつた一人で過す多くの夜を、その窓に倚《もた》れて、彼は幾度《いくたび》か/\自分の仕事、自分の将来についていろ/\に思ひを馳《はし》らせた。そんな時、いつも彼の心の中《うち》には抑へきれない憧憬《しようけい》が波うつてゐた。彼の所謂《いはゆる》「幸福な幻影」が彼の目の前に顕々《あり/\》と描き出《いだ》された。――最も合理的に耕作された田畑、緑の樹蔭《こかげ》に掩はれた村、肥えて嬉々《きゝ》として戯れてゐる牧獣や家禽《かきん》の群、薫ばしい草花に包まれた家屋、清潔に斉然《きちん》と整理された納屋や倉、……甦《よみがへ》つた農業! 愚昧《ぐまい》な怠慢な奴隷達から開放された、自由な、生々とした土地! そこでは凡てが新鮮で、気持よく、そして、これまでのやうな乱雑や、下劣や、廃頽《はいたい》やが何処《どこ》の隅にも見ることが出来ない。……
「僕の力できつと[#「きつと」に傍点]さうならせて見せる!」
かう思ふと、
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