らげ、軽く易々《やす/\》とした暢気《のんき》な気持ちにさせた。なぜなら、そのなかに使用《つか》はれた「もくろみ」といふ言葉が、彼等の間では軈《やが》て直ちに『失敗』といふことを聯想《れんさう》させるものであつたから。――これを機として、彼等の話題は他の方へふら/\と漂ひ流れて行つた。この村の、もう一軒の地主である寺本といふ家では濁酒《だくしゆ》の醸造を創《はじ》めて、まだ十年と経《た》たない今日《こんにち》、家屋敷まで他人手《ひとで》に渡してしまつた……といふ、そんな噂《うはさ》や、それから、近年この近在の地主たちによつて頻々《ひん/゜\》として演じられるその種の失敗の数々を次から次へと並べたてて行つた。彼等独特な、思ひきり明つ放しな高笑が、時々彼等の間で湧き起つた。
人々に依《よ》つて犂返へされた湿つぽい土からはほか[#「ほか」に傍点]/\した白い水蒸気が立ちのぼり、それと共に永い冬の間どこにも※[#「鼾のへん+嗅のつくり」、第4水準2−94−73]《か》ぐことの出来なかつた或る一種の生々した香《にほひ》が発散してゐた。その畑地の外側に沿ふて通じてゐる灌漑用《くわんがいよう》の堀
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