割の中を、雪解《ゆきげ》の水が押合ふやうにしてガボン/\流れてゐた。
二
地面は、燃えるやうな憧憬《しようけい》を持つた青年を新らしく主人に迎へて喜こび、且つ彼を愛してゐるやうでもあつた。
新らしく植付けられた林檎や葡萄《ぶだう》や実桜《さくらんぼ》の苗は何《いづ》れも面白いやうにずん/\生長《おひの》びて行つた。下作《したさく》として経営した玉葱《たまねぎ》やキャベツの類《たぐひ》もそれ/″\成功した。
農林学校|出身《で》の、地主の悴《せがれ》の欣之介《きんのすけ》は毎日朝早くから日の暮れるまで、作男の庄吉を相手に彼の整頓《せいとん》した農園の中で余念なく労働した。玉葱やキャベツの収穫時《とりいれどき》には、彼の小さな弟や妹たちまで尻《しり》つ端折《ぱしをり》をして裸足《はだし》で手伝ひに出かけた。玉葱を引抜いたり、キャベツを笊《ざる》に入れて畑から納屋《なや》へ運んだりした。燥《はし》やぎのジム(飼犬《いぬ》の名)が人々の後を追ひかけ廻つて叱《しか》られたり、子供たちが走つて転《ころ》んで収穫物《とりいれもの》が笊の中から飛び出して地べたをころ/\ころがり
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