男と話し合つてゐた中央《まんなか》の男が、麻紐《あさひも》で腰へ下げてある竹の箆《へら》で餅《もち》のやうにへばり[#「へばり」に傍点]着いてゐる鍬の土を払ひ落しながら、幾らか気になると云つたやうに訊《たづ》ねた。
「さうなつたら、みんなで手を繋《つな》がつて北海道へでも出かけるより外ないさ。百姓が田地《でんぢ》にありつけなくなつたらもう、どうにも終《をへ》ないからな。」と、皺嗄声の男が答へた。ところが、その言ひ方が妙に哀れつぽくて殊更《ことさら》らしく滑稽《こつけい》だつたので、みんなが一斉にどつ[#「どつ」に傍点]と笑ひ出した。
「笑ひごつちやないぜ。全く、追々時勢が変つて来てるんだからな。」
と、さつきの、恍けて真面目な顔をした男が、笑つて/\眼から涙を流しながら言つた。
前よりも一層大きな、一層長く続く笑声が湧起《わきおこ》つた。と、その中の一人が、もう一度、一同《みんな》の笑を繰返へさせようとして、「若旦那も罪なもくろみ[#「もくろみ」に傍点]を初めなすつたものさね。」と言ひ放つた。そして、その目的が充分に達せられた。その上に、それは、多少なり興奮してゐた一同の頭を一遍に和
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