。お前がたの今言つてたやうな事が、あの若旦那の耳へ入りでもしたら、」と、その隣に並んで同じ労働《しごと》に従事してゐた三番目の男が、前の二人を窘《たしな》めるやうに言つて、その会話に加つた。「あの人は真面目《むき》だから怒ると恐《こは》いぜ。それに、今度のことぢや、若旦那、篦棒《べらぼう》なのぼせ[#「のぼせ」に傍点]やうをして居なさるんだつて言ふからな。」が、その調子には、どこか一同《みんな》と共通した不平と嘲笑《てうせう》の影がひそんでゐた。彼は飽までも恍《とぼ》けた真面目《まじめ》な顔をして、なほも続けた。
「なんだつていふぜ、今度の事がうまく成功すると、追々手を拡げて、所有地を全部小作人から取上げてしまふんだつて。そして、村ぢゆうをその林檎林にしてしまふんだつて。いや、あの人のこつたからきつとやるぜ。」
「そんなことされて堪《たま》るもんか。」と、誰やらが、それに反対した。
「だつて、堪るも堪らないもないぢやないか。地主様の仕《さ》つしやる事、誰が苦情を申立てられよう!」と、他《ほか》の声が答へた。
「だが、さうなつたら、俺等《わしら》はどういふ事になるんだ?」と、最初皺嗄声の
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