まだ妙に冷たいもんな。」と、それと並んで同じ労働《しごと》をしてゐる同じ年格好の、もう一人の男が云つた。そして、どこか不平を洩《も》らすやうな調子で訊《たづ》ねた。「だが、此地《こゝ》で一体何がおつぱじまるんだね?」
「林檎林《りんごばやし》が出来るんだとよ。」と、皺嗄声の男が、これも何やら気に入らなさ相な口調で答へた。
「へえ、林檎林が出来るか。だが、この界隈《かいわい》ぢや昔から林檎つてことは聞かないな、俺等《わしら》の地方《はう》にや適《む》かないんぢやないかね。なあにさ、そりや、どうせ旦那衆《だんなしゆう》の道楽だから何だつて構はないやうなもののな。」
「ほんとによ。林檎がこの土地に適かうが適くまいが、そんなこと俺等に何の関係もないこつたが、その為めに、俺等が永年作り込んだ地面を、なんぼ自分の所有《もの》だといつて、さうぽん/\と無造作《むざうさ》に取上げられたんぢや、全くやりきれやしない。」
「第一、勿体《もつたい》ないやね。こんな上等な土地を玩具《おもちや》にするなんて、全くよくないこつた! それには些《ち》つと広過ぎるよ。」
「しツ! 止《お》かつしやい。馬鹿言ふぢやない
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