年の畝《うね》を犂返《すきかへ》してゐた。
漸《やうや》く雪解《ゆきどけ》がすんだばかりなので、ところどころでちよろ[#「ちよろ」に傍点]/\小流《こながれ》が出来てゐた。掘返へしても掘返へしても、かなり下の方まで土がぢく/\[#「ぢく/\」に傍点]濡《ぬれ》れてゐた。それで、人足たちの手も足も、着てゐる仕事着も、頬《ほゝ》かぶりにした手拭《てぬぐひ》まで――身体ぢゆう泥だらけになつてゐた。
方々で、泥の飛ぶ音や水のはねつ返へる音がしてゐた。
「やりきれやしないや。」と、誰《たれ》やらがこぼ[#「こぼ」に傍点]してゐる。
「ほ、滑つて、歩かれやしない!」と、どこかで、他《ほか》の男が怒鳴つてゐる。
と、こちらの、邸境《やしきざかひ》になつてゐる杉林に沿つたところを犂返へしてゐる一人の中年の男が、それに答へるやうに、何かで酷《ひど》く咽喉《のど》を害《や》られてゐる皺嗄声《しわがれごゑ》で、「何だつてまだ耕作《しごと》には時節が早過ぎるわ。」と嘯《うそぶ》いた。「地面の奴《やつ》、寝込みをあんまり早く叩《たゝ》き起されたんで機嫌《きげん》を悪くしてゐやがるんだよ。」
「さうよ、土が
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