しい一日々々を重ねた。しかし、彼の内部に一度巣くつた憧憬《しようけい》は、やがてまた新らしい形となつて頭を擡《もた》げ初めた。
「此地《こゝ》でない、どこか他《ほか》の処《ところ》に広々とした、まだ何者にも耕し古るされてゐない新鮮な沃野《よくや》が拡がつてゐる。そこには旧《ふ》るくさい不自由な式たり[#「式たり」に傍点]、何とも知れず厭《いや》な様々な因縁《いんねん》――邪魔をするものが何もない。思ひのまゝに力一ぱいに仕事をすることが出来る!」
青年の心は再び新らしく呼び起された。彼の机の上に、オーストラリア、カリフォルニア、テキサス、ブラジル……さういふ国々の土地に関したことを書いた書物が幾冊か取集められた。それ等の書物の中に、方々の耕作地や、牧場や、山林や、港やの写真が沢山載つてゐた。その中の一つには、人間《ひと》の背丈《せい》の三倍もあるやうな高さの綿花《わた》の木が見渡す限り涯《はてし》もなく繁つてゐる図があつた。と、他の一つに――これは何処《どこ》かの港の図で――何か袋につめた収穫物が大きな丘のやうに積み重ねてある。それを大勢の人足共がその周囲《まはり》に集つて端から/\と
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