上げられて再び小作人たちの手に委《ゆだ》ねられた裏の畑地は、何事も起らなかつたもののやうに、間もなく、以前と少しの変りもない旧《もと》の姿に復《かへ》つて行つた。こま[#「こま」に傍点]/\した幾つかの小さな畑に区劃《くくわく》され、豆やら大根やら黍《きび》やら瓜《うり》やら――様々なものがごつちや[#「ごつちや」に傍点]に、風《ふう》も態《ざま》もなく無闇《むやみ》に仕付けられた。小作人たちは其処《そこ》で再び彼等独有な、祖先伝来の永遠の労苦を訴へるやうな、地を匍《は》ふやうに響く、陰欝《いんうつ》な、退屈な野良唄《のらうた》を唄ひ出した。そして、その周囲《まはり》の物懶《ものう》げな、動かし難い単調が再びそこを蔽《おほ》ひ尽してしまつた。
 永い一日の間に、ほんの一寸した雲の切目から薄い日の光が、ほんの一寸の間《ま》ぱーつと洩《も》れて来た。と思ふともう消えてしまつた。欣之介の傷ついた心には、その後の曇天が以前にも増して一層暗欝に一層|厭《いと》はしいものに感じられた。彼は、世に容《い》れられない不遇の詩人のやうに徒《いたづ》らに苛々《いら/\》した。悩ましい、どうしようもない、悲
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