だらけな、醜態《ぶざま》な土地が残された。
 畑の中央部に在《あ》つた可愛らしい小さな家も無論取こぼたれた。それを取囲んでゐた薫《かぐ》はしい香《にほひ》を放つ多くの草花は無造作に引抜かれて、母家《おもや》の庭の隅つこへ移し植ゑられた。
 この騒ぎの最初の日、欣之介は自分の家に留《とどま》つてゐるに堪《た》へない気がして、朝から隣家《となり》の病身の大学生のところへ出かけて行つた。友達は以前から見るとまた一層弱つてゐた。この分ではとても長くは生きられない、などと自分から言つて嘆息していた。そして、落胆《がつかり》して、悲観してゐる欣之介に対しても寧《むし》ろ「君などは身体がいゝんだから、これからだつて何をしようとも好きだ。」と云つて羨《うらやま》しがつてゐた。
 そこへ、午後になつて、小学校の教師が学校の帰りだと云つて訪《たづ》ねて来た。
「今、お宅へ伺つたら、こちらだといふ事でしたから。……一寸《ちよつと》畑の方をのぞいて来たんですが、まあ、何と言つたらいゝんでせうかね。僕等のやうな弱い心臓《ハート》を持つた者には、とてもあゝした痛々しい光景を立止つて見てゐるに堪へませんな。」こんな
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